卵子凍結 凍結より、融解後が大切 ダイレクト法で高い妊娠率
こんにちは、中村嘉宏です。
さて、前回は冬眠のお話をしましたが、今回はより現実的な卵子凍結のお話をします。
当院では2000年から白血病患者の卵子凍結を行ってきました。2007年には日本A-PARTの臨床研究施設となり、血液悪性腫瘍疾患(白血病や悪性リンパ腫)に対する卵子凍結を行う臨床研究を行うなど、多くの症例について卵子凍結を行い、技術の蓄積を行ってきました。
当院では卵子凍結後の卵子から妊娠症例を多数経験しておりますが、患者さんとっては「がん治療を目前にした時」や、「パートナーが不在」などの事情で初めて卵子凍結という技術を耳にして、驚きや戸惑いを覚えるのはごく自然なことです。また、卵子凍結を考えていても、どのような方法なのか、どのくらいの確率で妊娠可能なのか、何もわからず卵子凍結をためらう人も多いでしょう。
そこで、当院で行っている卵子の凍結について、少しお話をします。
当院では、以下のような方法で卵子凍結を行っています。
卵巣刺激
がんの告知を受けた方でも、抗がん剤治療までの期間が10日から14日間程度あれば、採卵は可能です。通常月経開始後から行う卵巣刺激を、月経周期の時期に関係なく開始します。注射薬を用いますが、注射は自己注射も可能です。採卵日は朝8時くらいに受診していただき、12時くらいには帰宅できます。卵子を確認し、成熟している卵子を凍結します。
また、ホルモン感受性のある乳癌の治療中の場合、卵胞ホルモンをあまり上昇させないレトロゾールを用いて症例の採卵を行うこともあります。
卵胞数が多くなれば麻酔をして採卵しますが、それほどでもない時は麻酔をせず採卵できます。
思っているより、簡単に採卵できるのではないでしょうか。
凍結保存
ガラス化法という、短時間で細胞質を保護しながら急速に凍結する方法を用います。現在の日本では、基本的に胚凍結はガラス化法で行われています。
受精方法
通常、未受精卵融解後の受精率は新鮮卵に比べて劣ります。当クリニックでは、未受精卵を融解後迅速に顕微授精させる方法(ダイレクトICSI法)を施行し、迅速に顕微授精を行うことにより、新鮮卵と同等の妊娠率を得ております。
妊娠症例
8月末の時点で、ホームページに記載している件数より少し増えています。
未受精卵166個を融解し、胚盤胞まで発育したのが32個。これらの胚盤胞の一部と、3日目の分割胚の段階で移植した方もおられ、移植した胚は合計42個です。
そのうち、妊娠数が15、分娩数が11、妊娠継続中が1例です。移植あたりの妊娠率35.7%、出産に至るのは26.2%でした。凍結時の平均年齢が37.7歳ということを考えると、なかなかの妊娠率であるのではないかと考えています。
実は卵子凍結自体は簡単に行えるのですが、施設ごとに融解後の顕微授精や培養の方法が異なることで差が出ます。また、融解後の妊娠率について公表している施設は限られています。実際に融解して出産まで至った症例が限られているからです。
当院では患者さんの数が限られた凍結卵子と真剣に向き合って、融解後の顕微授精の方法にも工夫を重ねて来ました。その技術の蓄積があり、このような素晴らしい結果につながっていると考えています。
特に骨髄移植後の方の出産例は日本有数の実績です。この他、採卵当日に精子が見つからなかった重度の男性不妊の方が、卵子凍結に変更し、後日精巣精子採取術(testicular sperm extraction)などで採取した精子で顕微授精を行い、妊娠出産にいたった症例も経験しています。
当院の卵子凍結、融解、顕微授精の技術は、がんを患われた方や卵子の加齢が心配な方にとっても大きなメリットをもたらします。