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胚凍結の期間が長いほど移植成績は低下する?

こんにちは、培養室です。

一階に新しい絵が掛けられました。恥ずかしながら芸術には明るくないのですが、なかなか所以のある絵なのだそうです。

皆さんはもうご覧になりましたか?

岡本太郎作 「跳ぶ」 – なかむらレディースクリニック|大阪の不妊治療・体外受精専門クリニック (towako-nakamura.com)

 

 

さて今日は、「胚凍結の期間が長いほど移植成績が下がった」という論文をご紹介します。

The effect of storage time after vitrification on pregnancy and neonatal outcomes among 24 698 patients following the first embryo transfer cycles

 

上海の単一施設で、2011-2017年の間に初めて移植をおこなった24,698症例を対象に研究が行われました。

これらの周期には凍結初期胚移植や凍結胚盤胞移植、また2個移植が含まれますが、二段階移植とPGD※1を実施した胚は除外されています。

移植した周期のうち、86%が2個胚移植93%が初期胚移植でした。

凍結は急速ガラス化法で実施され、十分に安定した環境で保存されていた胚を融解・移植しました。

 

凍結期間 3ヶ月未満 3-6ヶ月未満 6-12ヶ月未満 12-24ヶ月未満
症例数 11,330 9,614 3,188 566

引用:The effect of storage time after vitrification on pregnancy and neonatal outcomes among 24 698 patients following the first embryo transfer cycles

 

胚融解後の胚生存率に関して4群間に差は見られませんでした。

  3ヶ月未満 12-24ヶ月未満
着床率  39.92% 25.76%
臨床妊娠率  55.60% 35.69%

着床率、hCG陽性率、臨床妊娠率、多胎妊娠率、生産率、多胎生児出生率のいずれも、保存期間が長い群ほど低下しました。流産率と子宮外妊娠率は保存期間が長くなるにつれて増加したものの、有意差は流産率にのみ確認されました。

また、生まれた児に関する調査においても有意差は見られませんでした。

 

※1 PGD※

移植の前に胚の染色体を調べる検査のことです。数年前に表記が改められ、PGT-A /PGT-SR /PGT-Mと表記されるようになりました。

 

 

 

※※※

 

卵巣刺激や胚培養技術が向上し、移植では凍結胚移植周期の需要が高まる昨今、その間を繋ぐ胚凍結技術は必要不可欠です。

その昔、胚凍結には「緩慢法」という方法が用いられていました。緩慢法は温度をコンピューター制御できる機械(プログラムフリーザー)を使い、長い時間を掛けて胚を凍結する方法です。凍結に数時間要することや、プログラムフリーザーという特殊な機材が必要なこと、新たな「急速ガラス化法」の登場もあって、現在ではほとんど使われていません。

緩慢法に比べて手技がシンプルで工程は短時間で完了し、融解後の胚生存性も極めて高いのが急速ガラス化法の強みです。反面、使用する凍結液に細胞毒性があることや、緩慢法に比べて歴史が浅く検証がまだまだ必要であるとする意見もあります。

▶︎急速ガラス化凍結法についてはこちら

 

実際「どのくらい長期保存した胚から生まれた例があるのか?」と言いますと、去年アメリカで、30年前(1992年)に凍結した胚から双子のお子さんが生まれたという報告がありました。この報告をもって「30年は大丈夫! 絶対安全です」−−とはならないのが難しいところです。ただ現状理論上は胚凍結期間に限度はなく、各施設ごとの保存期限や、移植を受ける女性の側に「生殖可能年齢」という制限が課せられている状態です。

 

限度が気にされがちななかで、数ヶ月〜1年未満の短期間に、治療成績が変わるというのはあまり見たことがありませんでした。

胚の凍結保存期間が長いほど移植成績(移植してから生まれるまで)が悪化する可能性が示唆されています。

 

さて、気になるのは次の2点です。

①単一施設でおこなわれた研究であること

この施設の手技や環境など何かしら原因がある可能性があります。

この点には論文の筆者も触れておられ、症例の条件を初回移植のみに絞り、患者のバックグラウンドを統計的に補正するなどの工夫をおこなったと書かれていました。

 

②後ろ向き研究であること

現在から過去に遡っておこなう研究のことを指します。

既にあるデータを解析するので、現時点で存在しないデータ(記録していない項目)は調べられません。また、集計したい項目を事前に調整・設定するわけではないため、前向き研究に比べて研究自体の精度がやや低くなる傾向にあると言われています。

反対に、条件を設定したあとでこれから発生する出来事を観測していく方法を前向き研究と言います。前向き研究にもデメリットはあり、研究に時間が掛かることや追跡しきれない症例がままあることが挙げられます。

 

読んでみて大変驚いた論文でした。

反対の結論(凍結期間と移植成績には関係がない)を出している論文もあり、上記の2点などを踏まえると、現時点では鵜呑みにはできません。

治療成績の悪化が何によって引き起こされているのか、今後は複数施設による集団研究や、前向き研究が望まれます。

この記事を書いた人

培養室

培養室

不妊治療・体外受精専門のなかむらレディースクリニックの医師や培養士が監修

なかむらレディースクリニックは、不妊でお悩みの方々に安心して不妊治療、体外受精をうけていただくためのクリニックです。朝8時から診察し、平日は木曜日を除いて夜7時まで受付をしています。日曜日、祝日も年末年始以外休まずに診察し、多忙な方でも相談していただきやすい不妊治療を目指しています。

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