より安全なPGT-Aを目指して(非侵襲性PGT-A)②
こんにちは、培養室です。
PGT-Aそのものの是非は脇に置いたとしても、現行の手技ではたまごの栄養外胚葉を採取する必要があるため、侵襲性が高い方法です。改善策としてni PGT-A(非侵襲性PGT-A)が考案されたものの、DNAをいかに正確に回収するかという点に問題があって……というのが前回のお話でした。
今回は、niPGT-Aを後押しする論文をひとつご紹介しようと思います。
Noninvasive preimplantation genetic testing for aneuploidy in spent medium may be more reliable than trophectoderm biopsy
PNAS July 9, 2019 116 (28) 14105-14112; first published June 24, 2019; https://doi.org/10.1073/pnas.1907472116
Edited by R. Michael Roberts, University of Missouri, Columbia, MO, and approved May 24, 2019 (received for review January 31, 2019)
アメリカの大学病院で2013〜2017年の間に不妊治療を行なった13組のカップル(女性年齢の平均35.9歳)から提供された胚盤胞52個を対象に研究が行われました。栄養外胚葉(TE)のグレードがaもしくはb、かつ内部細胞塊(ICM)が十分に確認できる5-6日目胚盤胞であることを条件に設定しています。提供胚盤胞は今回の研究以前にTEを用いたPGT-Aを行なったものです。
今回の研究に際して融解した胚盤胞を24時間培養し、培養液と胚を回収してそれぞれDNAを増幅し、解析しました。「TE生検」と「niPGT-A」と「胚そのもの」の解析結果を比較しました。
モザイク胚と判断する閾値を30〜60%に設定した際、niPGT-Aの偽陰性はありませんでした。
より正確*に有効性を評価するために陽性予測値:PPV(=[真陽性]/[真陽性+偽陽性])を求めました。
PPV | |
TE生検を用いたPGT-A (従来型のPGT-A) |
78.0%(32/41) |
niPGT-A
|
91.7%(33/36) |
結果、TE生検を用いた従来のPGT-AよりもniPGT-Aの方が胚との一致率が高く、胚のモザイクに左右されないことが分かりました。
* 今回提供された胚盤胞には異数性胚が多い点(TE生検のPGT-Aで82%)については注意が必要だとしています。同年代で異数性と判定されるのは平均約35%ですので、非常に高い数値です。胚盤胞へ発育する際に異常な細胞はTEに寄せられるという考えがあり、その考え方に則ればTE生検の結果が胚そのものと一致しないのは一定に仕方がないことなのかもしれません。
今回の論文では、niPGT-AがTEを採取するPGT-Aよりも信頼性が高いと主張しています。
「なるほど、ではやるならniPGT-Aをやるべきなのか?」と問われたら、一概にそうとは言えないのが現状です。いくつか論文を探してみたところ、niPGT-Aの評価はぱっくり分かれていました。niPGT-Aを推進する人にも、現行PGT-Aを推奨する人にもそれぞれに言い分があって、一定の合理性があるように見受けられました。これはniPGT-A自体がまだ新しい技術であるために、これからさらに詳細な手技手法の設定を考えていかなければならない段階なのだと思います。