PGT-Aの問題点 生検の胚への影響③
こんにちは、院長の中村嘉宏です。
これまで2回に分けて(① ②)PGT-Aで必須の生検が胚に与える影響について考察した論文を紹介してきました。このシリーズは今回が最後です。
早速ですが、前回の続きから始めていきましょう。
2017年12月のFertility & Sterility にて、Caraらが報告した“Impact of multiple blastocyst biopsy and vitrification-warming procedures on pregnancy outcome”の後半部分についてです。
今回もPGD/PGSの両方を合わせてPGTという表記を使用します。
グループ①はPGTを行ううえで、もっとも一般的な流れを汲んだものです。今回の検討では、比較対象のためのコントロール群として扱われています。2183個の胚盤胞が融解され、2149個の胚盤胞が移植されています(98.4%)2個胚移植した例を除くと2130個の胚盤胞を1つ移植し、胎児心拍が確認できた(FHB陽性)のが54.6%、生産率が50.0%でした。
グループ②では、37個の胚盤胞を再融解し、36個を移植しました。胚の生存率は100%でした。FHB陽性が47.1%、生産率が38.5%でした。
グループ③では、29個の胚盤胞を再融解し、生存率100%。29個を移植し、FHB陽性が31.0%、生産率が27.3%でした。
グループ①に比較して、グループ②/③ではFHB陽性率、生産率が低下しているのが見てとれます。ただ、グループ②/③ともに全体の数が少ないことを考慮する必要はあります。
グループ①とグループ②では統計学的な有意差はありませんでしたが、グループ①とグループ③では統計学的有意差を認めました。検討症例が増えることで今後、グループ①とグループ②の間でも、統計学的有意差が出てくる可能性は十分にあります。
これらの結果から言えることは、凍結した胚盤胞を融解して生検を行う場合は、胚に対するダメージが通常の生検に比較して大きくなる可能性があるということです。
また、PGTを2回行う場合には出産率がかなり低下するため、複数回はできれば避けるべきです。
しかしながら、重篤な遺伝性疾患を検査するPGD、特に胚の数が限られているような状況では、2回目の生検を行う必要があるケースも出てきます。そのような場合は胚に対する影響を十分に考慮したうえで、2回目の検査を行うかどうかを相談する必要があるでしょう。
現実に起こりうる状況下での胚盤胞への生検の影響を評価した非常に興味深い論文でした。