生命はいつから生命であるのか?
こんにちは、培養士です。
今年も培養室に新人がやってきて、毎日一生懸命仕事に打ち込んでくれています。教える側に立つことで曖昧なままにしていた事柄に気づき、自分自身も学びを得る毎日です。
さて、今日は少し前のニュースをご紹介します。
米アラバマ州の主要病院、体外受精治療を停止
https://www.bbc.com/japanese/articles/c0d772zrn91o(BBC NEWS JAPAN)
2020年、アラバマ州の不妊治療施設内で、第三者によって胚が破損される事件がありました。
アラバマ州には「未成年者の不法死亡法」という法律があります。この法律が規定する未成年者とは、生まれた後の子供はもちろん、生まれる前の胎児も対象とされています。
では、胎児のもっと前、凍結胚はどうでしょうか?
この事件に端を発する裁判は最高裁までもつれ込み、2024年2月16日に「凍結胚は子供である」という判決がくだされました。つまり、ごく普通の生殖補助医療をおこなっていても、医師やコメディカルが訴追を受ける可能性を否定できません。この懸念を受けて体外受精治療を一時中断する施設が出る事態になったようです。
治療を急ぐ方にとっては途轍もない逆風です。また、今回の判決はアメリカの宗教的な背景が色濃く出たもので、他州にも同じような動きが出ないか心配されています。
今回の裁判結果や発端になった事件から、それぞれ衝撃を受けました。
ヒトの胚が何ものであるかというのは、生命倫理に関わる重大な問題です。
現在、日本に胚の法的な位置付けを定めた規範は存在しませんが、ガイドラインで慎重に取り扱うべき「生命の萌芽」としてみなされています。
また後者の「無施錠の凍結庫に患者が入り込み、容器を落としたことで胚が不可逆のダメージを負った」というのは、聞くだにぞっとしない話です。
当院では、タンクごとに施錠、凍結庫も施錠でき、培養室に入室するにも鍵が必要で、二重三重に守られた状態で保管されています。。それでも、万が一ということがないように、細心の注意を払って胚をお預かりしたいと考えています。