PGT-Aの問題点 生検の胚への影響②
こんにちは、中村嘉宏です。
前回(PGT-Aの問題点 生検の胚への影響①)、PGT-Aを行う上で必要なアシステッドハッチングや生検が胚盤胞にもたらす影響についての論文をご紹介しました。続いて、今回紹介するのは、2017年12月にFertility & Sterility にCaraらが報告した“Impact of multiple blastocyst biopsy and vitrification-warming procedures on pregnancy outcome”という論文です。
既に凍結している胚盤胞を融解してPGD(受精卵の遺伝性疾患の有無を調べる方法)あるいはPGT-A(受精卵の染色体数を調べる方法)を行った場合の結果についての報告です。このコラムでは、これ以降PGDとPGT-Aを包括してPGTと表記します。
胚生検を新鮮胚で行い凍結するのが、通常のPGTの方法です。
しかし、PGTを行わなかった凍結済みの胚盤胞に対してPGTを行いたいというケースが時に発生します。この場合は胚を融解してPGTを実施し、その後、再凍結することになります。また、PGTを実施・胚凍結後、融解して2回目の生検を行うケースも存在します。
どうして複数回の検査が必要となるのでしょうか? 生検の技術的な問題や、移送時の検体の劣化などの理由でDNAがうまく増幅されず、PGTの結果が出ない場合がこれにあたります。こうした胚盤胞の検査結果を知るためには、凍結した胚盤胞を再融解し生検をする必要があるのです。
今回の論文は、すでに凍結している胚盤胞を融解して胚生検した場合や、PGTを行った胚盤胞を融解して複数回生検を行い、再凍結、再融解をした胚盤胞がどの程度ダメージをうけたかを評価している重要な論文です。
論文は2つのパートに分かれています。
前半では、PGTせずに凍結した胚盤胞を融解してPGTを行い再凍結したグループ①とPGTの結果が得られなかったため、PGT実施後凍結した胚盤胞を融解してPGTを行い再凍結したグループ②を比較しています。
生検をせずに凍結した胚盤胞を融解した234個の胚盤胞のうち、220個(94%)が生存し、そのうち165個(70.5%)が胚生検を行い、161個(70.5%)が2回目の凍結をする事ができました。残りの4個はPGTの結果に関わらず胚移植をしています。一方、生検をして凍結したグループでは、142個の胚盤胞を融解し、136個(95.8%)が生存し、うち116個(81.7%)が2回目の生検が可能でした。116個のうち102個が再凍結され、12個が胚移植されています。残り2個はPGTで異常が見つかったため廃棄されました。
いずれも形態的には、移植や再凍結に問題が無かったようです。PGTの結果やその後の妊娠率などは記載されていませんが、胚生検が可能かどうかについてに関しては両者に差はありませんでした。凍結している胚を融解して胚生検を行う場合、7〜80%で可能という結果でした。
一旦胚生検して凍結、融解した胚の方が胚生検できた率が高いのは、凍結前の胚生検していた場所付近から胚生検をすることが可能だったためではないかと推察されます。
後半パートは、次回のコラムで説明します。